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映画「瞽女GOZE」完成披露試写会に参加して 脚本家・日本児童文芸家協会会員 椎名勲
Aug. 5.2020

17 年の歳月をかけて完成した映画「瞽女 GOZE」。
3 月に開催する予定だった完成披露試写会であったが、新型コロナウイルス蔓延のために自粛 して、延期していた。
7 月 23 日、有楽町朝日ホールにおいて、三密を避け人数を少なくして、開催するに至りまし た。

人間国宝と謳われた主人公の、最後の瞽女小林ハルさんは、生涯目の見えぬ全盲の人だった。 厳しい修業に耐え、見えぬ目で旅に明け暮れ、瞽女唄を歌って人々に喜びとやすらぎを届け、
105才の生涯を生きた。
・・・「目に見えぬウイルス世界を生きる現実の社会」と重ね合わせて、映画を見ていた。 そう思って見ていると、瀧澤映画監督の演出力も相俟って、コロナ下の日本社会において、 なかなか示唆に富んだシーンやセリフのある映画だった。
この映画は、もともと東京オリンピック・パラリンピックの年に、「障害者の自立と社会との共生」をたて糸に、「母子の慈愛」をよこ糸に、美しい絹織物の如く描いた映画であった。
今日、試写を見ていて気がついた。
三密を避け、マスクをつけ、飛抹感染に注意し、大勢の会食や観戦もままならぬ、手洗い・ うがいを励行する。否応のない制約の中で、生きて行かねばならぬ(コロナ)社会で、いか に自分を律し、人々の連帯を失わずに、かつ楽しみを見出して、美しく生きるか? たとえ手探りであっても、理性と感性を働かせ、厳しい現実に勇気をもって立ち向かい、生 き抜いて行く。 良い人と歩けば祭り、悪い人と歩けば修業・・・ハルさんの生き様は、現代のコロナ社会に 通じる。
「色」を理解できない苦悩、針穴の見えないミズ通しへの挑戦、吹雪の中の寒稽古・・・暗 い世界にあって、将来に希望を持ち、どうやって生き抜くか? 観客の感情移入を巧みに誘うシーンが続く。
そして、
化粧の際に唇をわざと大きくはみ出して描く口紅、
目の見えぬ瞽女が、トンネルの暗闇でランプの光を浴びた瞬間の驚愕の顔、
2度ばかり、ホッと息をつき、小さな笑いがくる。
現実的でないシーンも描かれてはいるが、映画は「夢」の世界だ。小難しいことを言わずに、
大らかに鑑賞して下さい。
盲人が主人公であるが、暗い内容の映画じゃない。良心的な美しい芸術作品だ。
笑い声も湧いたシーンもあって、素敵な映画に仕上がった。

出演女優6人の舞台挨拶が、こうしたコロナの社会状況下でも、華やかで良かった! 久しぶりに、楽しかった。
挨拶した女優さん方は、川北のん(子ども時代役)、吉本実憂(青春時代役)(全日本国民的 美少女グランプリ受賞者)、中島ひろ子(母トメ役)、小林綾子(師匠役)、鈴木聖奈(手引 クニ役)、小林幸子(占い師役)(歌手)。
   (注)小林姓が3人いますので、以下、小林ハルさんは「ハルさん」、小林幸子さん は「幸ちゃん」、小林綾子さんは「綾子さん」と呼ばせて頂きます。

さすが幸ちゃんだ。
観客を一瞬に惹きつける。オーラが違う。
彼女のリードで、楽しいトークだった。
ハルさん90才時の実際の歌声(映画中の実写記録)を聴いた幸ちゃんが「私も90才まで 現役で歌いたい!」と宣言したら、観客席からファンの声援が飛んだ。 綾子さんが、子役ののんちゃんを指して「私の子役の頃を思い出す!」と言ったときは、観 客に大いに受けていた。皆さん、「おしん」を思い出していた。綾子さんの魅力と実力を改 めて知った。
主演女優の実憂さんが、喋ろうとして、声をつまらせた。「泣いてしまって! 自分が出た 映画で初めて泣きました」。客席から、惜しみない拍手、拍手。
つられて、幸ちゃんが、指先で目をそっと拭って「化粧が取れちゃう!」。幸ちゃんは、勘 どころで観客の心を掴むネ!
私の旧友「国際的バッハ学者・指揮者樋口隆一名誉教授」の明治学院大学を卒業した鈴木聖 奈さんは、童顔の女優さんですが、演出・演技論の一端を語り、知的な一面と、良く響く美 声を披露してくれた。彼女の声質は、人をうっとりと魅きつける。
中島ひろ子さんは、終始控えめに、皆さんを支えていたけれど、衆に優れた存在感があった。
この映画で、助演女優賞を獲れるといいな。実際にお会いすると、やさしい思いやりのある美しい方なのに、映画では、つりあがった鬼の目と、裂けた唇、鬼の表情で、鬼子母神の如き母親を見事に演じていた。

舞台挨拶には出られなかったけれど、敵役の師匠・フジ親方を演じた冨樫真という女優は怪演・快演だね。凄い女優さんがいるもんだ。
品位を落とすことなく・ほくそ笑む演技には仰天した。
映画の中では歌わず三味線も弾かないけれど、見る人をして、自ずと名人上手の類と謳われた師匠だった、と思わせる。
現代の日本の名優綿引勝彦と真っ正面からわたり合って、一歩も引かない。
すっかり目を奪われた。
この映画は、勿論必見の作品であるが、冨樫真の演技を見るだけでも、万金に値する。

同じく、舞台挨拶には出られなかったが、綾子さんの母親役を演じた宮下順子さんの演技力 には、感嘆、讃嘆した。階段で立ち止まってキッと睨んだセリフに、明治女の気骨を感じて、思わず唸ってしまった。

有楽町朝日ホールの会場は、「映画瞽女 GOZE 製作委員会」のメンバー及び実際に映画を製作した株式会社キッズのスタッフの尽力と、上映ホール側のご好意で、できうる限りの感染予防措置を講じ、招待人数も大幅に減らしたため、三密を避け、不安なく、鑑賞できた。
終了後のお帰りの際も、司会者のアナウンスで、小人数ずつ上映会場から退出して、エレベー ターに乗る配慮がなされていた。
関係者の方々のご努力に、心から御礼申し上げます。

雨をおして出かけた甲斐がありました。
[人間の生きる美しさと尊厳と。日本映画が世界に発信するメッセージ、ここにあり!] この映画を見ずして、2020年の邦画を語れようか? 8月に新潟県で先行上映、秋には東京で上映されるから、映画ファンの皆さん、是非お見逃しなきようお願い申し上げます。